【弁護士が解説】侮辱罪厳罰化の背景と改正案について

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先日、侮辱罪を厳罰化して懲役・禁錮を刑罰として加える旨の刑法改正案が閣議決定され、今国会中の成立を目指すとの方針が示されました。

侮辱罪の厳罰化については近年その必要性が取りざたされてきたところですが、このたび法改正がなされるに至ったのは、やはり一昨年SNS上の誹謗中傷で被害者が自殺してしまうという悲しい事件が生じてそれが広く報道されて話題になったこと、及び加害者に科された刑罰が「科料9000円」にとどまり、それがまた話題を呼んだことの影響が大きいのでしょう。

昨年春に上記の刑罰が科された後、早急に法定刑の改正が必要ということで同年秋には法制審議会で法改正について議論がされ、そこから半年も経たないうちに冒頭に述べた閣議決定がされるに至っています。

広く知られた深刻な事件が発生した直後の動きということもあってか、このような厳罰化の動き自体については、そこまで根強い反対意見が出されているというわけではないようです。

他方、侮辱罪というのはかなり成立する範囲が広く、現行刑法に定められている罪名の中ではトップクラスの「誰もが加害者になり得る犯罪」となっており、この厳罰化が及ぼす影響というのは誰にとっても無視できるものではありません。

そこで、間近に迫る法改正を見据えて、本稿では侮辱罪の現状と改正案について概観していきましょう。

まず、どのような場合に刑法上の侮辱罪が成立するかが問題となりますが、ここはざっくり「みんなの前で人の悪口をいうと侮辱罪が成立するかも」と考えておけば良いです。

侮辱の範囲は広く、言葉だけでなく動作によっても成立し得ますし、当然インターネット上に書き込みをするという行為によっても成立し得ます。

そして、各種SNSやインターネット上の掲示板では、侮辱に相当するような書き込みの類は日夜ほぼ絶え間なく行われており、冒頭に述べたような悲惨な事件が発生して初めて話題にのぼるというのが悲しい現状ではあります。

このような状況になってしまった原因としては、やはりインターネットの普及が大きいでしょう。

インターネット上の書き込みは多くの場合匿名で行われるため、悪口を書き込む心理的なハードルが低くなってしまうほか、先行する書き込みに便乗して多数の同種の書き込みがなされるという事態も生じてしまうなど、侮辱による被害が発生しやすい性質を有しています。

また、ネット上の書き込みは容易に全世界にまで拡散されてしまう一方で、一度された書き込みを完全に削除することは極めて困難であるため、被害が拡大・深刻化しやすい側面も有しています。

そして、現代日本のインターネットの普及率は極めて高く、誰でもいつでもどこででも、手元のスマホを触るだけで上記のような性質を持つ侮辱的な書き込みをすることができるようになっています。

このような時代の変化にあわせて、侮辱的な書き込みの類を制限する必要は極めて高いと言えるでしょう。

ただ、インターネット自体の有用性は今更否定すべくもなく、インターネットの利用自体を制限するというのは現実的ではありません。

そこで、犬に杖を振り上げるが如くということにはなりますが、侮辱行為を厳罰化することで被害の発生を未然に防ぐというのがもっとも手っ取り早い対応ということになるのでしょう。

現在の侮辱罪の刑罰は拘留と科料(30日未満の間捕まるか、1万円未満の罰金を科されるとお考え下さい)に留まっていましたが、今回の改正案では最大で1年の懲役または禁錮が科されるようになったほか、罰金の上限も30万円に引き上げられています。

一番大きな改正点といえるのはやはり懲役刑の導入です。

現行法上も拘留という刑罰は定められていますが、侮辱罪の刑罰の中では最も重い処分であるせいか、法制審議会の資料によれば平成28年以降に侮辱罪で拘留を科された被告人は一人もいません。

今回の法改正によってこの現状が一気に変わり、侮辱の程度や被害の大きさによっては、懲役刑を科される人が出てくる可能性は十分あるでしょう。

また、懲役刑が導入されることに伴い、公訴時効についても1年から3年に伸びることとなります。

既に述べたとおりインターネット上の書き込みは匿名でなされることが多く、加害者の特定に時間を要することも多いことからすれば、時効の延長についても時勢に合った制度の変更が行われたと言えるでしょう。

余談ですが、今回の刑法改正については、懲役と禁錮(どちらも刑務所に入れられますが、前者は刑務作業を義務づけられるのに対し、後者はその義務がありません)を一本化して「拘禁刑」を新設するという内容も含まれています。

現在の受刑者のうち禁錮刑を科されている者は1%未満に留まること、その数少ない禁錮受刑者も大半は自ら希望して刑務作業に従事するという状態であることから、実情に合わせた法改正をおこなうということのようです。

刑罰の種類が変わるのは100年以上前に現行刑法が成立して以来初めてとのことで、こちらもある種のインパクトを有する法改正といえそうです。

当然侮辱罪についても、近いうちに1年以下の「拘禁」とされることになるのでしょう。

いずれにせよ、SNS等の広まりによって侮辱罪が身近な犯罪となり、誰もが容易に被害者にも加害者にもなりうる時代であることは間違いありません。

岡野法律事務所では、SNS等インターネット上のトラブルに強い弁護士や刑事事件に強い弁護士等、個性豊かな弁護士を数多く揃えて皆様のお問い合わせをお待ちしております。

お電話でのご相談も喜んでお受けいたしますので、SNS上の書き込み等でお悩みの際は、是非お近くの岡野法律事務所にご相談下さい。

文責:池上

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