「救済新法」の内容について弁護士が解説

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今月に入り、旧統一教会による被害の防止・救済を図るための、いわゆる救済新法が成立しました。

この法律の正式名称は「法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律」というもので、施行日は来年1月5日となっています。

旧統一教会をめぐっては、今年の7月に安倍元首相が旧統一教会の信者の家族とされる人物によって銃殺される事件が発生したことをきっかけに種々の議論が過熱し、ここ数ヶ月はこの救済新法の実効性をめぐる審議や宗教法人法に基づく質問権の行使、ひいては解散命令の請求の是非等様々な話題がニュースを賑わせています。

それら全ての問題を詳細に解説するとなるとさすがに私の手には余りますので、本稿では比較的私たちの生活に身近な「意思表示の取消」という論点に絞って、救済新法の内容について概観していきたいと思います。

まず当たり前の話にはなりますが、通常の責任能力を有する成人が行った意思表示は、原則として有効であって簡単に取り消すことはできません。

例えば「新作のグラコロが思ったより美味しくなかった。商品を返すから代金を返して欲しい」といった主張をいちいち認めていてはハンバーガー一つ売るのにも面倒が生じ、取引行為を含む社会生活を円滑に行うことができなくなってしまうからです。

これに対して、いわゆる詐欺や強迫があった場合のように、意思表示の過程が他人の手で不当にねじ曲げられてしまったような場合については話が変わってきます。

このような場合に詐欺や強迫を行った悪者のために意思表示を有効とする原則を維持して被害者の方に涙をのんでもらう必要はないので、例外的に意思表示の取消を可能とする、というのが現行民法の基本的な建て付けです。

ところが、旧統一教会の勧誘行為で問題となる多くの事例は、このような伝統的な枠組みで対処できるものではありません。

①あからさまな詐欺・強迫行為を受けることなく自ら望んで寄付行為や物品購入等を行った信者の方々の意思表示が、②信者本人ではなくその家族等の第三者から見たときに明らかに不当なものであるため、第三者が信者の意思表示を取り消したいと考えている、といったケースが多いからです。

旧統一教会をめぐっては長年にわたって同種の被害が発生していて被害額も膨大であることから、不当な寄付等を制限して被害者を救済すべしとの社会的要請は大きいところのようですが、①のように詐欺・強迫等がない場合にまで安易に意思表示の取消を広く認めると、既に述べたとおり取引行為が不安定になりますし、②のように第三者による取消を認めることはかえって信者の方々自身の自由を侵害することになりかねません。

いくら第三者の目から見たときに不要・不当なものであるといっても、個人が自らの財産をどう処分するかはあくまで個人の自由であり、時計を買おうが何も手元に残らない10連ガチャを回しまくろうがちょいと怪しげな壺を高値で買おうが本人の自由というのが今の日本の法律上の原則なのです。

今回の救済新法も、旧統一教会の被害者救済という社会的な風潮と、過度な取消権行使等を認めた場合に生じる社会的弊害の防止との板挟みに遭い、何とも煮えきれない規定を定めて実効性に欠けるとの非難を受けるに至っています。

まず①の問題点については、寄付の勧誘にあたって退去や第三者への連絡を制限する行為や、恋愛感情・霊感による不安等を利用して寄付をしなければ勧誘者との関係が破綻するとか本人又は親族に生じる不利益を回避するために寄付が必要不可欠である旨を告げる行為といった、禁止行為を列挙した上で、禁止行為によって困惑して行った寄付の意思表示の取消を認めるという方策がとられました(なお、救済新法の制定と足並みを揃えて消費者契約法にも同様の規定が追加され、両者が相まって消費者契約に該当する寄付の申し込み・承諾とそれ以外の寄付について同様の規制が及ぶようになっています)。

ただ、これらの禁止行為はそこまで広範囲の勧誘行為をカバーできているわけではないですし、取消権の行使を主張するにあたって禁止行為がなされたことを立証するのが難しいという難点も抱えています。

最初から違法な勧誘がなされることを予期して録音をとっていたというような極めて例外的な事例を除き、勧誘の際に退去や連絡が制限されたとか、寄付が不可欠であると告げられたとかいう事実を事後的に立証できる事例は、そこまで多くないように感じます。

また、②の問題点については、寄付者本人又はその配偶者や親族が居住している不動産を処分して寄付資金を準備することを要求する行為も禁止行為の一つとされたほか、寄付者の被扶養者が本来受け取る権利を有する養育費等を保全するため必要があるときに限って、寄付者本人に代わって取消権を行使できることが定められました。

このように第三者が取消権を行使しうる事例やその範囲を厳格に制限する定め方であれば、寄付者本人の自由を不当に制限する可能性は低いのでしょうが、その分新法を制定してまで防ぎたかった不当な寄付そのものの抑止に対しては効果が薄いといわざるを得ません。

ただ、法律の内容に対する賛否は一旦さておき、一度法律が成立した以上その法律にもとづいて依頼者様のご要望を叶えるための方策をあれこれ講じるのが我々弁護士の仕事です。

岡野法律事務所では、全国13箇所に本支店を置き、日本各地で地域の皆様に適切な法的サービスを提供しております。

お困りの際は、お近くの岡野法律事務所にお気軽にご相談ください。

文責:池上

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