部活動での「丸刈り強制」は違法?裁判例を弁護士が解説

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先日、熊本県の県立高校の元生徒が、在学中に部活動で丸刈りを強制されたなどとして、熊本県に対して損害賠償を請求していた事件について、熊本地方裁判所において請求棄却の判決が下されました。

判決理由の一つとして、元生徒が自ら上級生に丸刈りを頼んでいたことから丸刈りが強制的であったとはいえないとの判示があったようで、「部活動での丸刈り」というある種身近なテーマを含む判決ということで話題を呼んでいるようです。

私自身まだ判決文を確認出来ていないため確たることは言えませんが、特定の部活に所属する高校生が「全員」丸刈りにしている状況が「毎年」続いていた場合に、一切強制の類がなかったといえるか、生徒全員が真に丸刈りについて同意していたといえるのかと言われると、個人的には中々難しいところではないかと感じてしまいます。

この判決に対して元生徒側は控訴する意向を明らかにしており、今後は福岡高等裁判所に場所を移して法廷闘争が続く見込みです。

このような丸刈りの強制というのは、昔から裁判上問題になることが多くありました。

特に熊本県で丸刈りの是非が争われた裁判といえば、男子生徒の髪型を「丸刈り・長髪禁止」とする校則の違法性等について争われた裁判例(熊本地裁昭和60年11月13日判決)がまず思い起こされます。

この事件で問題になった校則は、生徒に長髪を許すと生徒が髪の手入れに時間をかけて遅刻する、授業中櫛を使い授業に集中しなくなる、整髪料によって教室に悪臭が漂うようになるといった弊害を防止する等の目的で制定されており、このような目的で丸刈りを強制する校則については合理性に疑いが残るとの判断が示されました。

しかし、校則の制定について学校側に広い裁量権を認め、かつ校則に従わない場合の不利益処分がないこと等から、結論としては学校側に違法性はなく請求棄却の判断がされています。

そして、当時の判例評釈によれば、当時熊本県内で男子生徒の長髪を許していた中学校が全体の約15%しかなかったという地方的慣習が重視されたことも、丸刈りの校則の違法性を否定された大きな理由の一つと考えられるようです。

現在では時代も大きく変わり、学生の丸刈りを強制する学校の話はとんと聞かなくなっています。

丸刈りの聖地ともいうべき甲子園でも、大谷翔平選手の出身校として名高い花巻東高校を筆頭に、丸刈りでない高校球児が少しずつ見られるようになっています。

ただ、校則による強制という形がなくなっても、冒頭に記した裁判例を含めて伝統や慣習という不文律によって「自主的に」丸刈りにするという事例はまだそれなりに残っているようで、今後も法廷で髪型を巡る紛争が起こることは続きそうです。

そして、髪型を巡る法的紛争を巡る論点は意外にもかなり多く、その結論について予測することは中々に困難です。

まずそもそも髪型の自由というものが存在するのかという点が問題になりますが、これは憲法13条に定められた幸福追求権の一環として認められるという見解が有力なようです(諸説ありますが、紙幅の関係上省略します)。

そして、仮に髪型の自由が保障されているとして、その髪型を制限するような規制が違法か否かの判断基準をどのように定めるかという問題もあります(さらに諸説ありますが、紙幅の関係上省略します)。

そしてその髪型の規制が学校等の団体によって定められているような場合は団体の性質によって裁量をどこまで認めるかという問題も生じます(いっそう諸説ありますが、紙幅の関係上省略します)。

また、学校の部活で伝統や慣習という形で事実上丸刈りが強制されていたとしても、それについて誰が責任を負うのかという問題も生じ得ます。

制度上学校を管轄する県や法人が責任を負うことになるのでしょうが、学校の一部の部活に存在するよく分からない不文律についてまで自治体等がいちいちチェックを入れて不適切な場合は是正しなければならないというのは、場合によっては酷な事態を生じさせるかもしれません。

そして、丸刈りが強制された場合にどのような損害が生じたといえるかも中々難しい問題です。

冒頭の裁判例はいわゆる1円訴訟で損害額が大きな問題になることはなさそうですが、損害額をいくらと主張してそれをどのように立証していくかというのは、厳密に考えると悩ましそうです。

なお、冒頭の裁判例では、入学直後に行われた応援団による校歌指導の適法性も争点の一つとなりました。

一応校歌を歌うという学校活動の一環であり、頭にバリカンを入れる行為に比べれば違法との判断は下しにくそうですが、具体的なやり方によっては学校活動として必要な指導と評価出来ず違法となることもあり得るでしょう。

こちらもひとまずは控訴審の行方を見守ることとなります。

いずれにせよ、学校でも会社でもその他諸々の団体でも、よく分からない独自のルールが設けられていることは往々にしてあります。

私の属する法曹界でも奇妙な伝統というのは多く存在しており、例えば某県の弁護士会では新人歓迎会の場で新人弁護士が「自主的に」一発芸を行う伝統の是非が問題となっていました。

なお、この伝統はなんやかんやで廃止には至らず今年も元気に自主的な一発芸の披露大会が行われたとのことです。

よく分からない独自のルールでお困りの方、逆に必要なルールに対して突如苦情を申立てられて困っている方も、ひとまず弁護士に相談してみれば悩みが解決するかもしれません。

お困りの際は、是非お近くの岡野法律事務所にお気軽にご相談下さい。

文責:池上

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