最低賃金の引き上げでどんな影響がでるかを弁護士が解説

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今月に入り、厚生労働省の中央最低賃金審議会が、最低賃金の全国平均を31円引き上げて961円にする決定を下したとの報道がなされました。

前年度からの上げ幅は2年連続で過去最大となったということで、大いに話題となっているようです。

その後、各地で上記審議会に対応した最低賃金の引き上げの発表がなされ、現在私がいる熊本県でも、先日最低賃金を853円に引き上げる答申がされています。

九州は伝統的に最低賃金が低く、熊本県では2015年まで最低賃金は600円台にとどまっていました。

それが10年足らずの間に853円まで上昇したというのですから、まさに隔世の感ありと言ったところでしょう。

この最低賃金の引き上げ自体の是非については、労働者が近年の物価高に対応するために必要なものだとか、コロナ禍で苦しむ中小企業にとどめを刺す愚策だとか、様々な議論がなされているようです。

こういった議論も勿論重要ですが、私どもの主たる仕事は決まってしまったルールを踏まえて紛争を解決したり、紛争の発生を予防したりすることです。

そこで本稿では、今般の最低賃金の引き上げによって、誰がどのような影響を受けてどのような影響が生じうるか、概観していきます。

まずこのような最低賃金の引き上げの影響を最も受けやすいのは、アルバイトやパートタイマーといった短時間労働者の方々でしょう。

学生や主婦向けのアルバイトの求人を見ていると、時給が最低賃金ギリギリのラインに設定されているものが多くあります。

さらに、実際にアルバイトに応募してみると実は数ヶ月から半月程度の研修期間が設けられていて、この研修期間中は時給が50円から100円程度下がる、といったケースも多く見られます。

しかし、たとえ研修期間中であってもれっきとした雇用契約が締結されているので、研修期間中の時給が最低賃金を下回ると違法となってしまいます(なお、いわゆる試用期間中について特例で最低賃金を更に減額する制度も一応存在しますが、様々な要件を満たした上で労働局長の許可を受ける必要があります)。

最低賃金法は違反すると事後的に最低賃金との差額を支払わないといけなくなるだけでなく罰則も課せられることになりますし、何よりも企業のイメージを大きく毀損する可能性が高いです。

最低賃金の引き上げは例年10月から適用される場合が多いので、今後急ぎの対応を迫られる企業も多くあるでしょう。

また、フルタイムで働く方々であっても、嘱託職員等の非正規労働者の方々については、最低賃金引き上げの影響を受ける場合がありそうです。

今さら語るまでもなく、現代の日本では正規雇用の方と非正規雇用の方の賃金格差が大きいことが問題となっています。

厚生労働省が今年の3月に発表した「令和3年賃金構造基本統計調査の概況」によれば、令和3年の正社員・正職員の年間給与平均は約323万円であるのに対し、その他の非正規労働者の平均は約216万円と、約1.5倍の格差が存在します。

そして、1年間の法定労働時間は2080時間ですので、上記の216万円をこの時間で割って算出される時給は約1038円となり、この金額は既に東京都と神奈川県の最低賃金を下回っているという状態です。

さらに、最低賃金の算定の基礎となるのは基本給と諸手当のみなので、一見最低賃金は下回っていないという場合でも、皆勤手当や家族手当、通勤手当に時間外手当といった最低賃金の算定の基礎とならない金額を差し引いてみると、実は引き上げ後の最低賃金を下回る賃金しか支払われていなかった、という事態が生じることも十分あり得ます。

そして、正社員であればそのような心配は無用かと言われると、実はそうではありません。

先日、大手IT企業が2023年の新卒初任給を42万円に引き上げると発表して話題になり、さらにその後上記初任給が「固定残業月80時間分、深夜残業月46時間分込み」であったとしてさらに別方向の話題を呼びました。

この件は初任給42万円という金額の高さ、及び固定残業が過労死ラインギリギリの月80時間に設定されていること等から注目を浴びましたが、そこまで人目を引く数字でなくとも、固定残業代制をいわゆる「定額働かせ放題」的な制度と誤認してずさんな制度設計をしてしまったり、最低賃金の引き上げを他人事と思って制度の適切な改訂を怠ってしまったりというケースは往々にしてあります。

このような場合は、固定残業代制度が事後的に無効とされて多額の未払残業代が発生するだけでなく、実は度重なる引き上げ後の最低賃金法に違反していたことが発覚するということも、今後は十分にあり得るのです。

最近は特に円安や原油高によって様々な値上げが相次ぎ、労働者目線でいえば賃金が上がらないと生活が苦しいご時世といえます。

さりとて経営側の目線からしても、様々な値上げによる支出の増加に加えて賃金まで上げるとなると経営が苦しくなってしまいます。

そこで、固定残業代の導入を含めた様々な対応を検討する場合もあり得ますが、その際に紛争を未然に防ぐためには事前に専門家へ相談したほうが良いでしょう。

岡野法律事務所では、日本各地にお住まいの労働者の方や経営者の方によりお気軽にご相談頂けるよう13の支店を配し、東京・大阪以外に本拠を置く法律事務所としてはNo.1となる56名の弁護士がより多くの皆様の悩みを解決できるよう日々尽力しております。

お困りの際は、是非お近くの岡野法律事務所にご相談下さい。

文責:池上

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