パワハラを理由とする公務員の免職事例について弁護士が解説

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今月に入り、部下らにパワハラを繰り返していた消防署の職員に対してされた分限免職処分の効力が争われていた事件について、最高裁が免職処分を有効として職員側の請求を棄却する判決を下しました。

公務員の分限処分ということで一般企業の解雇と全く同一視はできないものの、一審・二審の判断を覆して、一般的に困難な場合が多いいわゆる問題社員の解雇を有効としたという点で、一定の注目を集めました。

この事件では、職員が部下に対して重さ約2kgのバーベル用の重りを放り投げてヘディングさせる行為など、長期間にわたって多数のパワハラが行われていたとされていますが、実はこのパワハラの認定部分については一審・二審と最高裁とで大きな差はありません。

現に、昨年9月の広島高裁判決でも、各種パワハラ行為を認定した上で、「被控訴人のパワハラ行為は冗談や悪ふざけの域をはるかに超えた悪質なもの」「被控訴人の消防吏員としての適格性には問題があるといわざるを得ないから、被控訴人が相応の重い分限処分を受けるのは避けられない」などと、職員側を厳しく糾弾する判示がなされています。

それにも関わらず、一審・二審が免職処分を無効とした理由は、主に①職場環境と②手続選択にそれぞれ問題があったことです。

具体的には、①については、消防署において職員に対してパワハラ防止の教育的指導や研修等を行った事実がうかがわれないこと、元々職場で当該職員以外の者によるパワハラが行われていた可能性があり、それに対する相応の処分がされた形跡がないこと等が、本件処分を無効とする根拠としてあげられています。

また、②については、本件では懲戒処分ではなく分限処分(パワハラのような問題行為に対して用いられる懲罰的な処分ではなく、成績不良や心身の故障に対して公務の能率を維持するために用いられる公務員特有の処分です)が選択されていたこと、分限処分の性質上処分にあたって当該職員のパワハラ行為に関する改善可能性の有無・程度が十分に考慮されたか疑問であること(分限処分の場合は通常成績向上の可能性や体調の改善可能性が考慮されることとなります)、そして上記の研修等を通じて職員に更生の機会が与えられたと認められないことが、本件処分を無効とする根拠としてあげられています。

②のうち分限処分の性質については公務員特有の問題であって一般化はできないものの、その他の手続の適正や職場環境の改善に関する判示については一般企業においても通用する判示です。

したがって、この広島高裁の判決は、重大なパワハラ事案が生じても安易に解雇処分をしてしまうと処分が無効となり得るという従来の裁判例の傾向を踏襲したものと受け止められていました。

しかしながら、今回の最高裁判決は、同じ事実関係を前提としながら高裁の判断を綺麗に覆しています。

判決理由をみると、上記原審の判断のうち、①の教育的指導や研修がなかった点は「被上告人の粗野な性格につき・・・簡単に矯正することはできず、指導の機会を設けるなどしても改善の余地がない」として重きを置かず、他の職員によるパワハラについては「(免職処分が適法であるという結論は)消防組織において上司が部下に対して厳しく接する傾向等があったとしても何ら変わるものではない」とばっさり切り捨てています。

また、②の手続選択の問題については、職員間で緊密な意思疎通を図ることが職員・住民の生命や身体の安全を確保するために重要という消防組織の特質から、「公務の能率の維持」という分限処分の観点からしてもこの職員を消防組織内に配置することは困難であるとして、分限免職処分は適法との判断をしています。

今回の判決文は全体が4頁弱、そのうち最高裁の判断部分は1頁程度と非常に短く(判決から長期間経過していなければ、「最高裁 判決文」等と検索すれば判決文を確認できます)、判決の射程や影響を見定めるには各種の評釈を待つ必要がありそうですが、少なくとも重大なパワハラを理由としつつ手続面にやや難がある解雇の適法性を判断する際の一つの参考事例にはなりそうです。

なお、時を同じくして、熊本県のとある自治体でも副町長がパワハラを理由に懲戒免職とされたとの報道がされました。

こちらは上記の事案ほど重大なパワハラが行われた事案ではなく、副町長に対する懲戒処分が規定上「けん責」「500円以下の過怠金(罰金)」「免職」の三択しか存在せず、さすがに500円以下の罰金では軽すぎるということで懲戒免職処分が選択された、というものです。

この件については現時点で係争中との報道はないものの、実際に懲戒免職処分の適法性が争われると違法との判断は免れないように思います。

懲戒免職は退職金の不支給等の重大な不利益をもたらす、労働者にとっての極刑ともいえる処分ですので、他に適切な処分ができる規定がなかったというだけで処分の正当性を認めるのは困難でしょう。

そして、このような事態は一般企業においても十分発生し得ます。

会社が労働者に対して懲戒処分を課するためには就業規則等に根拠規定が存在しなければならないのですが、その規定が十分に整備されていないことが処分を検討する段階になって発覚するというのは、決してあり得ない話ではないのです。

セクハラ・パワハラ等の各種ハラスメントについては近年特に取りざたされるところで、企業に対する社会的評価等の観点からしても、重大な事案についてはそれ相応の処分が検討される必要があります。

しかしながら、解雇のような重大な処分を下すにはその是非について特に慎重な検討が必要です。

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文責:池上

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