つながる社会、つながらない権利

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早いもので、新型コロナウイルスが最初に確認されてからもうすぐ2年になろうとしております。

ウィズコロナの時代にあわせ、私がいる熊本の裁判所でもようやく一部の裁判手続をweb会議で行う試みが始まりました。

世間ではとうにテレワークという言葉も浸透し、先日東京都が発表した調査結果によれば、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は65.0%にのぼったとのことです。

このテレワークの普及に伴い、「つながらない権利」という言葉を耳にするようになりました。

その定義について明確なものはありませんが、「勤務時間外に仕事上の電話やメールへの対応をしなくて良い権利」というような意味あいで用いられることが多いようです。

この権利については、2017年にフランスで法制化されたことで一時話題となりました。

具体的には、従業員50名以上の企業限定ではあるものの、就業時間外に仕事上の連絡があっても労働者が拒否できる旨定められるとともに、この権利について労使間で協議することが義務づけられたのです。

同様の動きはその後ヨーロッパの他国やEU自体でも広がりを見せたほか、欧州に拠点を置く大手企業の中にはもともと同様の内容を定めた就業規則が存在していたケースもあったそうです。

このように、つながらない権利はバカンスが根付いているヨーロッパの労働環境に親和性が高いものと思われていましたが、テレワークの普及に伴って日本でも注目を集めることとなったようです。

というのも、テレワークの普及によって、出勤・退勤という、仕事とプライベートの境界線となる行為がなくなったことが原因で、勤務時間とその他の時間の区別がなくなり、時間外労働等の労働者の負担が増加したという事例が多数報告されたのです。

中でも有名なのは連合が昨年6月末に発表した世論調査でしょうか。この調査では、テレワークによって「通常の勤務よりも長時間労働になることがあった」と回答した労働者が過半数に達し、さらに時間外労働を行った労働者の中で「時間外・休日労働をしたにもかかわらず申告しないことがあった」「時間外・休日労働をしても勤務先に認められないことがあった」と回答した方の割合も過半数に達したとされています。

労働者側からすれば、明確な終業のタイミングがないためにずるずる仕事をしてしまったり、ずっと家にいるということにある種の負い目を感じてしまって会社に対して残業したと主張することが心理的に難しくなったりするものと思われます。

他方、会社側からすると、労働者が仕事をする姿が目に見えないことや、タイムカード等の客観的・画一的な資料なく時間外労働を認定することによって今後問題が生じることを考えてしまうために、上記のような問題が発生してしまうのでしょう。

そこで、我が国でもテレワークにおける労働者の負担軽減のための施策が検討され、現時点ではひとまず厚生労働省が今年3月に公表した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」の中に種々の規定が置かれています。

その中でも、「メール送付の抑制」という項目では「テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。」と明記されています。

また、「システムのアクセス制限」という項目では「テレワークを行う際・・・所定外深夜・休日は事前に許可を得ない限りアクセスできないよう使用者が設定することが有効である。」との記載があります。

このあたりについては、まさにつながらない権利が具体化された規定とも言えるでしょう。

時間外や休日の労働は労働者にとって負担になることはもちろん、常態化すると労働能率の低下や人件費の増加を招くため、会社にとっても大きな問題となり得ます。

新型コロナウイルスの蔓延がきっかけになるという奇妙な経過をたどりましたが、つながらない権利の実現に向けた具体的な施策実施の必要性は、日本においても高まっていると言えるでしょう。

しかしながら、上記ガイドラインは強制力があるわけでもなく、つながらない権利という考え方が日本社会全体に浸透しきっているわけでもありません。

実際には、「会社やお客様から休日に何度も連絡が来て困っている」という方もまだまだいらっしゃるでしょうし、「そうはいっても休日や時間外に連絡が取れないと困る」というご意見も十分ありうることでしょう。

かくいう私が所属する弁護士業界についてみても、時間外や休日でも対応しなければならない急ぎのご相談を頂くことはよくありますし、休日に当番弁護等の公益業務に駆り出されることも勿論あります。

大事なのは、まず企業側が時間外労働や休日労働の必要性や実施する場合の制度設計について十分に検討し、かつ問題が発生した場合には労使双方が迅速に対処に動くことです。

岡野法律事務所では労働問題に精通した弁護士が多数在籍しておりますので、お困りの際は是非お近くの事務所にご相談下さい。

文責 池上

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